宙組 / 大和悠河・紫城るい / 日本青年館
元気良ければ、何語かわからなくてもよいのだ
バウ上演時、「何故東上しないのよう!」と泣いたものでした。
今思うと、どうしても見たいときはさっさと遠征してしまう私なので、そこまではげしく惹かれてはいなかったのかもしれませんが。もごもご。
でも後日、あの月丘さんが不倫相手役! と聞いたときには地団太踏みましたよ。小劇場は素晴らしいですなぁ本当に!
というわけで(なのかわかりませんが)心待ちにしていた青年館公演。
「不滅の恋人たちへ」でお似合いカップルだったお2人が主演なので、ワクワクも高まりますわよ。
脚本・演出は、植田景子先生。
景子先生といえば、今東京宝塚劇場で公演中の花組公演も同じ先生の作品ですが。
この先生の作品は、わりに淡々と進み、あとからじんわりと良さがにじんでくるような、そんな印象があります。「アンナ・カレーニナ」とか、あと「エイジ・オブ・イノセンス」とか。最後に「ハッピーエンド!」とか「バッドエンド!」(←?)とか、明確には何なのだかわからない。ただ淡々と結末に向かって物語が進んでいく。今回の物語も、そんな展開でした。
舞台装置がシンプルで大道具移動というものがなく、小道具や照明などで場面場面の雰囲気を作り上げていたのはサスガだなあと思いました。英字英字の壁。そういえば一時期、英字模様(?)のシャツとか流行ったことありましたな…。書き手の年齢がばれる。
物語。
若さあふれるスコット・フィッツジェラルド
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小説家デビュー! ゼルダと結婚できて、この世の春
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ゼルダのため=金稼ぐために大衆ウケする短編で稼ぐが、やっぱり自分が書きたいものを書きたい! そうだ外国に行こう
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集中して執筆! 一方放置プレイなゼルダは寂しさのあまり不倫
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いかるスコット、そして夫婦の間にミゾ
アル中の夫と精神を病んでしまった妻
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大恐慌、バブリー時代のスコット作品は流行らない…
でもお金稼がないとゼルダの入院費と娘の学費が。生活レベルは下げられないんですよ
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なんだかんだで悩みまくりのスコットさん
身体ぼろぼろ…
そして最後の1日
こんな流れです。後半はアーネスト・ヘミングウェイが登場し、スコットと対比して描かれます。ヘミングウェイはスコットのようにあやうい橋の上を渡るような生活ではなく、堅実に生きていたのでしょうか。
スコット・フィッツジェラルド(タニちゃん)。
家族のために、必死に働く大黒柱。普通の生活だったらこんなに苦しみはしなかったのでしょうか、ゼルダの浪費グセ(?)のために、執筆料を前借りしてまで書く書く書く。仕事(小説書き)は好きみたいです。小説を書くということにロマンをみいだしているようです。こういう性格のお人…というか芸術家には、ゼルダのような女性は難しいのではないかと思います。自分の夢をつい追いかけたくなってしまいますものね。
アル中になったり生活苦しくなったりするのですけど、何故だかずっと上品でダンディ~♪ なスコットさん。いいですな! 服装もいつもきちんとしているので、特に生活乱れているような雰囲気はなかったですな~。スコットさんのプライドのたまもの?
「不滅の恋人たちへ」のときのように、ヘンに渋さを狙っていない(いやよくわかりませんが)ところが良かったです。若い頃のハツラツスコットさんがかわいいです! あの「ライフ!」という歌は、途中の歌詞がまったく聞き取れませんでしたが……あわわ……なんというか、ハチャメチャ(笑)。チャリティーコンサートで歌っていたのはこの曲ですか。元気良くて勢いあればヨシってことで。スコッティとの親子の集いが微笑ましかったですなー。
ゼルダ(紫城さん)。
結構滅茶苦茶な行動のお嬢さま。
リベリアで、「お願いだから僕のジャマをしないでくれ」と言われたあとの彼女の苦悩が切ないです。「フィッツジェラルドの妻」ではあるけど、私って何? 私って誰? と悩むゼルダ。何していいのかわからなかったのです。自分でお金稼いでみればよかったのですよ…。そうしたら金を稼ぐことがいかに大変かわかる。(偉そうに) でも甘やかされて育ったお嬢さまにはそんなこと考えられず、そしてスコットは、ゼルダには金さえ与えておけば良いと思っていたのでしょうか。極端にいうとそういうことよね。精神的な自立に関してはあまり考えていなかった。キレイなゼルダに側にいて欲しいのだけど、不要なとき(=仕事に集中したいとき)はそのヘンで遊んでいてくれという…。結局、劇中では何のかのといっていたけど、スコットも今までゼルダの周囲に集っていた男達と同じく、彼女のことを「キレイなお人形」としか扱っていなかったのではないかなぁ。それか、スコットが期待するほどにゼルダが成長していなかったか、ゼルダのことを解っているつもりで実はそうではなかったか。そのあと、ゼルダはその空虚さを埋めようとするかの如く、バレエに没頭していくのですが…。
ものすごいことを発言してもどこかかわいらしい紫城さんのキャラはすごいと思います。いやー、かわいいのよ。ヒロインもいいが、いじわるな継母役(何の物語か?)とかやって欲しいと思いました。タニちゃんとの並びはとても似合っていると思います。タニちゃんが永遠の少年風なので(笑)包み込むような母性を醸し出し、それでも若々しさがある紫城さんが隣にくると、何ともいえないステキムードが♪ 2人の関係としては、「不滅~」の方が好みですが。
アーネスト・ヘミングウェイ(遼河さん)。
スコットのライバル、小説家。なにやら浅黒い風貌(笑)。とんでもない生活を送っているスコットをぎゃんぎゃん批判します。その後、ことあるごとにアドバイス(というか文句)を言います。結局、彼はスコットに惹かれていたっていうことですよね(決め付け)。憧れの人が、どんどんオチていくのを見ていられなかったのでしょう。初めてスコットと会ったとき、最初はきちっと座っていたのにゼルダが来て去った途端に偉そうな態度(足組み)になったのが「すごいな」と思いました。すごいあからさま。「こいつは尊敬に値しない!」とでも思ったのでしょうか。
スコットと対比させて描かれている人物なのですが、そんなに存在感があるように描かれているわけではない…かなあ。物語としては、結局スコットは自分自身がライバルだったのではないかな、という印象です。小説に勝ち負けってあまりないような気がしますしね。売れ行きはあるだろうけど、どちらを選ぶか迷ったら両方選べばよいわけですし。
横髪がなびいているのがステキです。自分に似合う髪形を知っているねお主。
ほか、つらつらと。
マックス、美郷さん。スコットの才能を見出した編集者。この方の落ち着きっぷりは、宙組になくてはならないですな。大好きです。
マックスのお付き(?)、月城さん。うおお! メガネだ!! まるで私のためにしてくださっているかのよう。うふふ。ダンスも大好きですが、声もキレイなんですよね。
ゼルダの不倫相手、月丘さん。うおお! 軍服だぁ!! しかもラブシーンまで繰り広げちゃう月丘さんに手に汗握ります! ぜーぜー! ラブシーンは里見八犬伝に続いて2度目でしょうか。手慣れてきたような? よくわかりませんが。月丘さんの声はとても特徴的で、「一体どこから出てんだ」的声質なのですが(何度も言ってますがファンです)、だんだん発声を変えてきたのか私が慣れたのか、今回はとても落ち着いていて温かいステキなお声でした。いっそ歌ってくれても良かった。たまに棒読み風でしたがそれでこそ月丘さん。はー、こんなステキな魅せ場があるなんてー。素晴らしすぎるー。
お医者さん、夏さん。うおお! 白衣だぁ!! ……なんか、景子先生だからか、血わき肉躍るポイントを突いてきますね。私が勝手に突かれているだけですか。バウはいいですなぁ…。夏さんの活躍はとても嬉しい。
スコットの秘書、ローラ。美風さん。スコットが仕事している横で、あんなにずっとしゃべられちゃジャマなのではないかとちょっと思いましたが(笑)、スコット想いのステキな秘書さんです。
スコットの娘、スコッティ。咲花さん。かわいいのです! 目に入れても痛くない娘。こんなに物分りの良い娘は素晴らしいですな! 私も欲しい! いっそ苦労をかけた私の母にプレゼントしたい!
スコットの小説を気に入っている爽やか青年、珠洲さん。うおーさわかかなペパーミントの風!(何のことやら) 珠洲さんと言えばいつぞやのロッカーやロシアンレディが強烈でしたが、爽やか青年も出来るんだぞ!(笑)
この舞台は装置もシンプル、お衣装もずっと同じ人がほとんどなのですが、これでもメッセージを伝えることができるというのが舞台の不思議なところでもあり、素晴らしいところであると思うのです。作り手の意図と観客の想像力が多くを補完できるのです。これが、舞台の魅力のひとつとも言えますな。